6月某日午前11時37分
S駅に特急243号が到着する2分ほど前
7号車の3Aの席で・・・俺は目を覚ました
はばたき市を出発してから・・・2時間半ほど
の待つS駅は・・・もう目の前だ
「珪くんを一人で待たせると女の子に逆ナンされる危険性があるから
私、少し先に行って待ってるね〜」
S駅のホームへ降り立った俺は・・・
ふと、からのメールを思い出した
俺は、逆ナンなんかされたこと無いけど・・・
俺がのことを心配するように、なりに俺のことも心配なのかもしれない
なにしろ、遠距離恋愛の・・・俺たち
今日のデートも、2ヵ月半ぶり・・・
昼前の駅のコンコースは、ゆったりと歩く人ばかりで
新はばたき駅での慌しさが嘘のようだった
梅雨の時期特有の・・・、湿度の高さ
まとわりつく空気は、決して俺にとって快適ではなかったけれど
の笑顔を思いながら・・・、俺は足早に待ち合わせ場所へ向かった
「だから〜、あんたなんか眼中無いの!
これからデートなんだから、もう、あっち行ってよ!しっしっ」
「そんな事言うなよ〜、こう見えても俺、結構イケテると思うけど好みじゃ無い?」
「何言ってんの?もう、全然イケテないっつーの、鏡見て出直せって感じ!」
「黙って聞いてりゃ、ひどい事言うな、ちょい顔貸せや!」
「嫌です!!」
俺は、多分ナンパであろう男に絡まれて大きな声をあげているを見つけた
男がの肩に手をかけようとしたところで、俺はその手を抑えた
「そのくらいにしておけ・・・」
「何だと〜?!誰に向かって口きいてやがんだ?!」
男は振り向きざまに、そう叫ぶ
「・・・おまえしか居ないだろうが」
俺があきれたように呟くと、男は「俺」に気づいた
「は、葉月・・珪?」
「珪くん!もう、この人しつこいんだから、何とか言ってやって!」
は、身を翻して俺の後ろに周りこみ、ナンパ男を指差した
俺は呆気に取られて大きな口を開けている男にこう告げる
「葉月だ・・・おまえに付き合ってる暇は無い・・・じゃ」
俺はの手を引いて、その場を立ち去った
「葉月珪・・・マジかよ?!マジ本物かよ?!」
ナンパ男のひとり言が、背中で聞こえてきた
俺は・・・、ここでようやくの格好を見て、ナンパの原因を悟った
の服装は、まるで夏本番のようで、肌を露出していた
身体のラインを強調するようにピッタリとしたキャミソールの上に
透けたレースのブラウスを羽織っただけ
ボトムは、超がつくほどのミニスカートで、惜しげもなく足を晒している
これで駅前に立っていれば、ナンパされても文句は言えない・・・と思った
でもは、そんな風に「男に見られていること」にはお構いなしで・・・
「ねぇ珪くん、おなか空いたね〜
ちょっと早いけどこの前メールで話したお店に行こう」
が嬉しそうに俺の手を引いて歩き出そうとする
でも、俺は・・・立ち止まって、
着ていたジャケットを脱いで、に着させることにした
これ以上、の肌を他の男に見せるわけにはいかない
「ん?珪くん、今日は暑いよ!別にジャケットなんか要らない」
「・・・ダメだ、着ろ」
「どーしてーー?暑いからヤダー」
「・・・どうしても、着ろ」
俺の強い口調に、は少し驚いて、俺の顔を覗き込む
「珪くん?なんか怒ってる?」
「・・・」
「怒ってる顔だ・・、その顔は怒った時の顔だ!」
「・・・うるさい、黙って着ろ」
「嫌だ!怒った珪くんの言うことなんか、聞かない!」
は、プイっと横を向く
俺は・・・、その態度に腹が立って・・・
「勝手にしろ・・・、ジャケット着ないなら・・・俺は、もう帰る」
「珪・・くん、そんなの・・ひどいよ!
折角来たのに、もう帰るなんてひどい」
は繋いでいた俺の手を払った
「珪くんのバカ!」
は感情が極まったのか、その瞳からポロポロと大粒の涙をこぼした
俺は、自分の言葉を悔やんだ
こうして泣き出すと・・・はもう止まらない
だから俺は、いつもしているのと同じように・・・
泣いているを引き寄せて、その顔を俺の胸に埋めた
時折・・・苦しそうに、肩を震わせて・・
俺の胸を叩く・・・
「もう・・・・泣くな、俺が悪かったから」
「泣くよ!だって・・・だって、珪くんが・・・もう帰るって!」
「ごめん・・・心配するな、帰らないから」
「本当?帰らない?」
「ああ・・・、帰るわけないだろ」
「もう・・・帰るなんて言わない?」
「ああ・・・言わない」
は、少し落ち着いたのか・・・俺の胸から離れる
涙で俺のシャツが濡れるのは・・・いつものこと
「じゃ・・もう泣かない」
は、涙で濡れた顔のままで、にっこりと微笑む
「でも、どうしてジャケット着なきゃダメなの?」
「・・・・、おまえのその格好」
「あ、可愛いでしょ!
珪くんとデートだから、おニューの洋服を買ったんだ」
「・・・・可愛いけど」
「けど・・?なぁに?」
「別に・・・なんでもない」
「なんか引っかかる、ちゃんと言って!」
俺は・・・の格好を上から下まで眺め、適切な言葉を選んだ
でも、「他の男におまえを見せたくない」って・・・言ったらこいつの反応は・・きっと
「見え過ぎ」
「え?」
「胸も、足も・・・他の奴に見せたくないから」
「珪くん・・・、それって〜〜、妬いてる?」
「・・・別にそう言うわけじゃ」
「妬いてるんだ!珪くん、私がナンパされてたから、妬きもちやいてる!」
やっぱり・・・思ったとおりだ
は、俺に妬きもち妬かせるのが大好きで・・・
メールのやり取りでも・・・、合コンに出かけた話とかしてきて
少し妬いた・・・俺の反応を楽しむ
今も・・・、まるで、砂場で隠されていた宝物を見つけた子供みたいに
自分の成し遂げた成果に・・・嬉しそうに、笑っている
「珪くん、妬きもちやかなくて平気よ、私は珪くんだけ見てるから」
そう言って、また俺の手を取って歩き始める
俺は・・・、やれやれと思いながら・・・、の後に続く
こんなふうに、喧嘩したり・・・泣いたり笑ったり
に振り回される俺・・・それがいつものペース・・・って事

梅雨空の隙間から・・・、太陽が顔を出して
俺たちの上に、熱い日差しが降り注ぐ
の髪が・・・日の光を受けて煌めいた
「珪く〜ん、何ぼんやりしてるの?先に行くよ〜」
が俺の顔を覗き込む
俺は、に着せようとしたジャケットを肩に掛け
眩しい光の下を歩き出した
「・・・、今日の予定は?」
「お昼は洋食屋さんで、その後は〜〜」
「・・ん?その後は?」
「私が〜珪くんに食べられちゃうの」
「・・・」
の言葉に俺が赤くなって・・・はまた嬉しそうに笑う
俺だけの・・・ちょっとエッチな姫
お望みとあらば・・・
今夜は・・・・覚悟しろよ
END
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